「辰浩、早く来て……」「あぁ、もうやめてよ……兄さん、これでいいから、じゃあね!……ツー……」
その時、電話の向こうから可愛らしい女性の声が笑い声と共に聞こえてきた。冷泉辰浩は自分のことで精一杯で、急いで電話を切るしかなく、兄には切れた音を残すだけだった。
冷泉辰彦は電話を持ったまま、笑った。なるほど、辰浩のやつ、本当に恋に落ちたようだ!それもいいだろう、暇を持て余したおばあさんが毎日心配することもなくなる。彼自身については、恋愛も結婚も地獄に落ちればいい!
お腹はもう三ヶ月以上になり、最初の朝の吐き気とあの時の事故以外は、すべて順調だった。千雪はおばあさんを落ち着かせた後、海辺のマンションに戻った。冷泉辰彦がまた来るのを恐れていたからだ。
家政婦の阿部さんは明るく気さくな女性で、彼女の到来により、寂しいマンションに少し活気が生まれた。そのため夜には、千雪はもう勇気づけるために部屋中の明かりをつける必要がなくなった。