第66章

叔父の言葉は、彼女の耳には入らず、ただぼんやりと雲の上を歩いているようで、頬は熱く、何階まで上がったのかも分からなかった。ホテルの1806号室の前に立ったとき、やっと叔父が彼女を連れてきたのは則安に会わせるためだと気づいた。

「……」彼女は喉がごくりと鳴り、意識がはっきりしないまま壁に寄りかかり、体が次第に熱くなってきた。頭の中で必死に則安の顔を思い浮かべ、こうなった以上、彼に会うべきだと思った。

井上草永は不安そうに彼女を一瞥し、ドアベルを押して、老けた顔を左右に見回し、少し緊張していた。この瞬間、彼の心の中では、どうやって状況を見極めるかを考えていた。結局、人に見られたくないことをしているのだから。

1分後、ドアが開いた。上半身裸で冷水シャワーを浴びようとしていた冷泉辰彦が入り口に現れ、怒鳴った。「くそっ、一体何の用だ？」

「あっ！」井上草永はまず彼の怒りに驚いて一歩後退し、その後目を見開いて、「冷泉さん……冷泉若旦那、どうしてあなたが？」藤原則安はどこだ？どこに行ったんだ？もしかして、チェックアウトしたのか？

後ろの輝くドアプレートを見ると、確かに1806だ。もしかして……くそっ、なぜフロントで藤原則安の宿泊記録を確認しておかなかったんだ！そうしていれば、こんな収拾がつかない状況にはならなかったのに。

「なぜ俺がここにいるかだと？」冷泉辰彦の赤らんだ顔はさらに不機嫌になった。彼は春薬に苦しめられて冷水シャワーを浴びようとしていたところに、このろくでなしのギャンブラーが彼を煩わせに来て、さらにこんな意味不明なことを言うとは！

「何だ？お前が彼女を連れてきて会わせたい相手は俺じゃないのか？」彼は壁に寄りかかり、潤んだ目をした千雪を一瞥し、目を危険に細めた。これは偶然だ、まさか彼がこれに出くわすとは！この井上草永がまた何か企んでいるのか、見てやろう！

「へへへ、冷泉若旦那……あの……」井上草永は後ずさりし続け、冷泉辰彦の鋭い視線の中で、何も言い訳できなかった。「あの……用事があるので、先に失礼します！」最後には干笑いして、足早に逃げ出し、ウサギよりも速く走り去った。