第67章

ところが、この男は冷泉大奥様に完全に支配されているわけではなく、彼女に触れることを頑なに拒み、話しかけることさえ軽蔑していた。このままでは、冷泉大奥様は彼女のお腹に疑いを持つだろう。

そこで思い切って、虎の髭に触れるような危険を冒し、彼女は冷泉辰彦に薬を盛り、そして30分後にパパラッチがここに来るよう手配した。物事を進展させるために、彼女と冷泉辰彦の関係を世間に知らしめる必要があった。

今、冷泉大奥様と冷泉旦那様もヒルトンにいる。もし彼らにもあの場面を目撃させることができれば、冷泉辰彦は逃げられなくなるだろう。どうやら、冷泉家の奥様の座は彼女のものになりそうだ。

井上千雪については、今頃はきっと誰かの男の下で悶えているだろう。冷泉辰彦の注意を引きつけるあの小狐、明日の一面記事を前にどんな顔をするか見ものだ。