第68章

しかし、彼は身動きひとつせず、体は熱く燃えているのに、瞳は氷のように冷たく、彼女の胸がどきりと跳ねた。彼女はフロントマネージャーを買収して彼の部屋の鍵を手に入れ、誘惑に失敗した今、重罪を問われるかもしれない。彼女は何とか取り繕わなければならなかった。

「わ...私はあなたの助手からここにいるかもしれないと聞いて、ついてきたの。サプライズを用意しようと思って...」彼女は身を引き、恐る恐る男との距離を取りながらも、甘えた声で言った。「辰彦、私たちがよく行ってたホテルのボウリング場に行かない?新しいアトラクションができたって聞いたんだけど...」

誘惑に失敗した以上、彼をここから早く連れ出さなければならない。記者たちや冷泉大奥様がすぐにここに来るかもしれないからだ。もし今の状況を目撃されたら、西川若藍はこの18階から飛び降りるしかないだろう。

「サプライズ?」冷泉辰彦は眉を上げ、瞳に皮肉な光が宿った。冷たさを含んだまま、「まず誰かに頼んで私に薬を盛らせ、そして私が正気を失っている間に私の子を宿そうとした?」

西川若藍は即座に血の気が引いた。「辰彦...」この男は怒っているが、どうしてあのダンサーが彼女の雇った者だと分かったのだろう?

「でなければ、なぜあなたはあらゆる手段を尽くして磁気カードを手に入れ、しかもこんな時間に私の部屋に入ってきたのか?」冷泉辰彦の瞳が冷たくなり、彼女に答えた。「あなたは私の部屋に入りさえすれば、薬の効果で私があなたに触れると思った...しかし、まさかこの小さな女が現れるとは思わなかったのでしょう...」

彼はベッドの上で同じく表情を変えた小さな女性をさっと見て、冷たい目を細め、西川若藍を見つめた。「さて、私からあなたに出て行ってもらうべきか?それとも自分で出て行くか?」

大きな過ちを犯す前だったので、この無知な女を許すことにした。今は、彼の小さな女性を抱きしめて眠りたいだけだった。

「辰彦、聞いて...」西川若藍の小さな顔は灰色になったが、まだ必死にもがいていた。「あなたが思っているようなことじゃないわ。井上千雪というこの女性の出現がとても偶然だと思わない?それに彼女も薬を飲んでいるわ...」