第10章 彼は私に隠れてもう1台の携帯電話を持っていた

葉山夢愛が去った後、私の視線はテーブルの上の山人参の包みに落ちた。

それは前回、葉山夢愛が故郷から持ってきたと言って私にくれたものだ。

青森県……

とても馴染みがある、どこかで聞いたことがあるような気がする。

突然、思い出した。

五十嵐良太が以前、故郷は青森だと言っていた。あそこは山人参の産地だと。

葉山夢愛は青森の出身。

五十嵐良太も青森の出身で、しかも、二人の料理の腕前も同じだ。

もしかして、この二人は知り合いなのだろうか?

しかし今は葉山夢愛はもう帰ってしまったので、次に機会を見つけて彼女と話すしかない。

今日は土曜日で、仕事はない。

朝食兼昼食を食べ終え、片付けをした後、本来なら沢田書人に会って相談するつもりだった。彼がジャーナリストという職業柄、人脈が広いはずだから、彼に頼んでロマンスホテルの宿泊記録を調べてもらい、田中遠三の愛人が誰なのかを突き止めようと思っていた。

しかし、突然の電話の着信音が、私の思考を中断させた。

見下ろすと、田中遠三の電話番号が点滅していた。

週末なのに、彼は何の用だろう?

これは彼からの初めての電話だった。「もし、ダー」

無意識に「ダーリン」という言葉が口から出かかった。

幸い私は機転が利いたので、気づいて最後の「リン」を飲み込んだ。

「ダー……田中社長、こんにちは!田中社長!」

「会社に来てくれ。」

「はい!」

七つの言葉、低い声、簡潔で、私の返事を待たずに電話を切った。

クローゼットを開け、適切な服を選ぼうとした。

しばらく探しても、適当なものが見つからなかった。

松岡小雲の服は少女っぽすぎるスタイルばかりで、私はもっと成熟でキリッとしたスタイルが好きだ。

クローゼットを閉めた後、スマホを開き、「大美」というデザイナーのネットショップでいくつかの服を注文した。

このショップのオーナーは以前フランスで一緒だった同級生で、彼女の服のスタイルは私の心にぴったりだった。

以前は服を買うとき、ほとんど外出せず、直接彼女のネットショップで購入していた。

気に入った服をカートに入れた後、決済の時に困難に直面した。

私にとっては非常に安いと思えるこの服も、松岡小雲の収入からすると、少し高すぎるようだ。

彼女の口座残高では支払えない。

私は黙って何着かの服をカートから戻し、外出用の一着だけを残した。

今の私は社長秘書という立場だから、あまりにも質素で安っぽい服装はできない。それは田中遠三の格を下げることになる。

そう考えると、突然、過去のことを思い出した……

私もこのように、いつも田中遠三のことを考えていた。

彼が様々な社交の場に出るたびに、私が彼の服装をコーディネートし、いつも彼が外で輝かしく見えるようにしていた。

実際、田中遠三は非常に好みがうるさい男で、私がコーディネートした服装だけが彼の気に入るものだった。

少し物思いに耽っていた瞬間。

再びスマホが鳴り、カスタマーサービスからのメッセージだった。

「お客様、ご購入いただいたこの一着は在庫があり、同じ市内配送で明日にはお手元に届きます。」

「はい、お願いします!」

急いで支払いを済ませた。

実際のところ。

服だけでなく、バッグや靴も買い替える必要がある。

しかし今はあまりお金がない。

お金ができたらまた考えよう。

1時間後、私は会社に到着した。

広大な社長室には、ただ一つの黒い影があるだけだった。

華やかさを取り除くと、彼の後ろ姿にはやはり孤独さがあった。

こんな時、私の心は揺らぎ始める。結局は深く愛していた人だから、証拠がない状況では。

私はやはり心が柔らかくなる……

彼は私たちのことを思っているのだろうか?

彼の心の中では私たちを愛しているのだろうか?

私には彼が読めない。

彼は自分の感情をあまりにもうまく隠している。

彼が振り向いて私を見たとき、私は彼の顔に悲しみの欠片も見ることができなかった。

「田中社長、何かご用でしょうか?」

「昨日、ゴールデン入り江に行ったな?」

「はい、山本弁護士と現場を確認し、専門の消防会社にも検査してもらいました。結果は、機器と設置はすべて基準を満たしており、問題はありませんでした。」

田中遠三の黒い瞳には既に不満の感情が芽生えていた。

「つまり、君が私に与える答えは、これは事故だということか?」

「50%の確率で事故、残りの半分は人為的な可能性があります。」

私はじっくり考えた末、結論を出した。

田中遠三はそれを聞いて冷笑した。

「これが私の求めている結果だと思うのか?」

私は知っていた、田中遠三がまた怒り出すことを。

彼は仕事に対して極めて厳しい人だ。

彼が私を抜擢したのは、このような役に立たない結果を求めているわけではない。

彼が求めているのは、会社の進展を推し進めるための対外的な社会的世論だ。

「田中社長、私はただ事実をご報告しているだけです。」

「私は事実など必要ない!私が欲しいのは会社の株価の急上昇だ。聞け、来週記者会見がある。その時に会社の新製品を発表する。君は私に違う答えを用意しろ。」

「はい!」

私は渋々承諾した。最終的にすべての答えは五十嵐良太にあると思っている。

少し考えた後、私はまた尋ねた。

「田中社長、一つプライベートな質問をしてもよろしいでしょうか?」

「言え!」

「山本弁護士から提供された情報によると、あなたのお宅にはもう一人家政婦がいるそうですが、彼女を見つけて話を聞いてみれば……」

「必要ない!彼女はこの件とは無関係だ。」

私がまだ話し終わらないうちに、彼は冷たく私の言葉を遮った。

このような硬直した反応に、私は衝撃を受け、驚き、ますます彼が何か言えない秘密を隠しているように感じた。

その時、携帯の着信音が鳴った。

この着信音は私の警戒心を呼び起こした。

田中遠三と10年近く一緒に暮らしてきて、私は彼の携帯の着信音をよく知っている。

彼は合計2台の携帯を持っている。

1台は仕事用、もう1台はプライベート用。

しかし、この着信音は彼の2台のどちらにも属していない。

私が少し驚いている間に、彼はすでに書類カバンから黒い携帯を取り出していた。

携帯のモデルは少し古く、約4年前の某フルーツ社の7Sのようだ……

明らかに、田中遠三は4年前から私の知らない携帯を持っていた。私に隠していたということは、必ず言えない秘密があるはずだ。

一瞬、私の頭の中は真っ白になった。

田中遠三が電話に出る時、彼の表情も優しくなった……

「どうしたの?」