葉山夢愛が去った後、私の視線はテーブルの上の山人参の包みに落ちた。
それは前回、葉山夢愛が故郷から持ってきたと言って私にくれたものだ。
青森県……
とても馴染みがある、どこかで聞いたことがあるような気がする。
突然、思い出した。
五十嵐良太が以前、故郷は青森だと言っていた。あそこは山人参の産地だと。
葉山夢愛は青森の出身。
五十嵐良太も青森の出身で、しかも、二人の料理の腕前も同じだ。
もしかして、この二人は知り合いなのだろうか?
しかし今は葉山夢愛はもう帰ってしまったので、次に機会を見つけて彼女と話すしかない。
今日は土曜日で、仕事はない。
朝食兼昼食を食べ終え、片付けをした後、本来なら沢田書人に会って相談するつもりだった。彼がジャーナリストという職業柄、人脈が広いはずだから、彼に頼んでロマンスホテルの宿泊記録を調べてもらい、田中遠三の愛人が誰なのかを突き止めようと思っていた。
しかし、突然の電話の着信音が、私の思考を中断させた。
見下ろすと、田中遠三の電話番号が点滅していた。
週末なのに、彼は何の用だろう?
これは彼からの初めての電話だった。「もし、ダー」
無意識に「ダーリン」という言葉が口から出かかった。
幸い私は機転が利いたので、気づいて最後の「リン」を飲み込んだ。
「ダー……田中社長、こんにちは!田中社長!」
「会社に来てくれ。」
「はい!」
七つの言葉、低い声、簡潔で、私の返事を待たずに電話を切った。
クローゼットを開け、適切な服を選ぼうとした。
しばらく探しても、適当なものが見つからなかった。
松岡小雲の服は少女っぽすぎるスタイルばかりで、私はもっと成熟でキリッとしたスタイルが好きだ。
クローゼットを閉めた後、スマホを開き、「大美」というデザイナーのネットショップでいくつかの服を注文した。
このショップのオーナーは以前フランスで一緒だった同級生で、彼女の服のスタイルは私の心にぴったりだった。
以前は服を買うとき、ほとんど外出せず、直接彼女のネットショップで購入していた。
気に入った服をカートに入れた後、決済の時に困難に直面した。
私にとっては非常に安いと思えるこの服も、松岡小雲の収入からすると、少し高すぎるようだ。
彼女の口座残高では支払えない。
私は黙って何着かの服をカートから戻し、外出用の一着だけを残した。
今の私は社長秘書という立場だから、あまりにも質素で安っぽい服装はできない。それは田中遠三の格を下げることになる。
そう考えると、突然、過去のことを思い出した……
私もこのように、いつも田中遠三のことを考えていた。
彼が様々な社交の場に出るたびに、私が彼の服装をコーディネートし、いつも彼が外で輝かしく見えるようにしていた。
実際、田中遠三は非常に好みがうるさい男で、私がコーディネートした服装だけが彼の気に入るものだった。
少し物思いに耽っていた瞬間。
再びスマホが鳴り、カスタマーサービスからのメッセージだった。
「お客様、ご購入いただいたこの一着は在庫があり、同じ市内配送で明日にはお手元に届きます。」
「はい、お願いします!」
急いで支払いを済ませた。
実際のところ。
服だけでなく、バッグや靴も買い替える必要がある。
しかし今はあまりお金がない。
お金ができたらまた考えよう。
1時間後、私は会社に到着した。
広大な社長室には、ただ一つの黒い影があるだけだった。
華やかさを取り除くと、彼の後ろ姿にはやはり孤独さがあった。
こんな時、私の心は揺らぎ始める。結局は深く愛していた人だから、証拠がない状況では。
私はやはり心が柔らかくなる……
彼は私たちのことを思っているのだろうか?
彼の心の中では私たちを愛しているのだろうか?
私には彼が読めない。
彼は自分の感情をあまりにもうまく隠している。
彼が振り向いて私を見たとき、私は彼の顔に悲しみの欠片も見ることができなかった。
「田中社長、何かご用でしょうか?」
「昨日、ゴールデン入り江に行ったな?」
「はい、山本弁護士と現場を確認し、専門の消防会社にも検査してもらいました。結果は、機器と設置はすべて基準を満たしており、問題はありませんでした。」
田中遠三の黒い瞳には既に不満の感情が芽生えていた。
「つまり、君が私に与える答えは、これは事故だということか?」
「50%の確率で事故、残りの半分は人為的な可能性があります。」
私はじっくり考えた末、結論を出した。
田中遠三はそれを聞いて冷笑した。
「これが私の求めている結果だと思うのか?」
私は知っていた、田中遠三がまた怒り出すことを。
彼は仕事に対して極めて厳しい人だ。
彼が私を抜擢したのは、このような役に立たない結果を求めているわけではない。
彼が求めているのは、会社の進展を推し進めるための対外的な社会的世論だ。
「田中社長、私はただ事実をご報告しているだけです。」
「私は事実など必要ない!私が欲しいのは会社の株価の急上昇だ。聞け、来週記者会見がある。その時に会社の新製品を発表する。君は私に違う答えを用意しろ。」
「はい!」
私は渋々承諾した。最終的にすべての答えは五十嵐良太にあると思っている。
少し考えた後、私はまた尋ねた。
「田中社長、一つプライベートな質問をしてもよろしいでしょうか?」
「言え!」
「山本弁護士から提供された情報によると、あなたのお宅にはもう一人家政婦がいるそうですが、彼女を見つけて話を聞いてみれば……」
「必要ない!彼女はこの件とは無関係だ。」
私がまだ話し終わらないうちに、彼は冷たく私の言葉を遮った。
このような硬直した反応に、私は衝撃を受け、驚き、ますます彼が何か言えない秘密を隠しているように感じた。
その時、携帯の着信音が鳴った。
この着信音は私の警戒心を呼び起こした。
田中遠三と10年近く一緒に暮らしてきて、私は彼の携帯の着信音をよく知っている。
彼は合計2台の携帯を持っている。
1台は仕事用、もう1台はプライベート用。
しかし、この着信音は彼の2台のどちらにも属していない。
私が少し驚いている間に、彼はすでに書類カバンから黒い携帯を取り出していた。
携帯のモデルは少し古く、約4年前の某フルーツ社の7Sのようだ……
明らかに、田中遠三は4年前から私の知らない携帯を持っていた。私に隠していたということは、必ず言えない秘密があるはずだ。
一瞬、私の頭の中は真っ白になった。
田中遠三が電話に出る時、彼の表情も優しくなった……
「どうしたの?」