余光でそっと楚山哲雄を見た葉山詩織は、心の中でドキッとした。
なぜなら、楚山哲雄が彼女を見ていないことに気づいたからだ。彼はチキンの足を食べていた。
もしかして、彼女は今さっき何か言い間違えて、彼に悪い印象を与えてしまったのだろうか。
でも彼女は淑女を演じるために本当に頑張っていた。服装から話し方まで、彼女は本当に努力していた。普段は大小姐気質で、家でも学校でも、みんなが彼女に譲っていたのに。
さっきはうっかり言い間違えただけじゃないか、言い間違えたというより、ただ数単語を間違えただけなのに。
「楚山哲雄……」葉山詩織は小さな声で呼んだ。
楚山哲雄はゆっくりと顔を上げた。表情は淡々としていて何も読み取れなかったが、すぐに彼女にチキンの足を差し出した。
「まずは食べましょう」