深山家では、木下奈々が早朝から起きていた。彼女はまだ興奮しており、自分の孫に会いたくてたまらない様子だった。
午前9時になると、彼女はもう座っていられなくなり、そばにいた使用人と運転手に言った。「出発しましょう。お城に行って、縁子を連れ帰りましょう」
そう言うと、運転手に手伝ってもらって車に乗り込んだ。
義彦が週末に行くと言っていたが、彼女はそんなことを望んでいなかった。一日でも縁子を迎えに行かないと、心が落ち着かないのだ。それに、子供の親権は彼らに与えられたのだから、早く迎えに行こうが遅く迎えに行こうが、迎えに行くことには変わりないのだ。
お城の鉄門に着くと、木下奈々はその鉄門を揺すり、門衛室の人に向かって叫んだ。「誰かいますか?」
しかし、誰も彼女に応答しなかった。