賀川心は書斎の入り口まで歩いていった。そこはパスワード付きのドアで、純灰色で、横には指紋認証ロックが設置されていた。書斎には夫婦二人の指紋だけが登録されており、他の部外者は一度も入ったことがなかった。
賀川心は親指を伸ばし、少し躊躇した後、指を押し当てた。
すぐにドアが自動的に両側に開いた。
そして彼女はすぐに書斎の現在の様子を目にした。
書斎の明かりはついておらず、一目見ただけでは曖昧な人影と、燃えている一本のタバコしか見えなかった。
「葉山大輔……」賀川心は夫の名前を呼んだ。
彼女は急いで中に入り、書斎の明かりをつけた。
明かりがついた瞬間、彼女はようやく目の前の男性、彼女の夫の姿を見た。
彼は今、革張りの椅子に座り、左手で頭を支え、右手には吸いかけのタバコを挟んでいた。顔色は少し青白く、病気のように見えた。しばらくすると、彼は続けざまに二回咳をした。