「こんな遅くに呼び出してごめん、怒ってない?」帰り道で、林田希凛は尋ねた。
「怒ってないよ」羽柴明彦はハンドルを握り、前方を見つめていた。
「夏目さんは...気にしないかな?」林田希凛は優しい声で続けた。「彼女にこのことを話した?」
「いや」
羽柴明彦の冷淡な反応に気づき、林田希凛は黙った。彼女はいつ黙るべきかを知っていた。
車が建物の下に停まると、林田希凛はドアを開けて降り、身をかがめてお礼を言った。「一人で上がれるから、早く帰ってね。今日は本当にありがとう」
11時半、夏目芽依はパソコンを閉じ、窓辺に寄りかかって下を覗き込んだ。
寝室の出窓の側面のガラスから見ると、ちょうど別荘のガレージ入口が見える。羽柴明彦はまだ帰ってきていない。一体何をしているのだろう?
数分もしないうちに、一筋の光が庭の外の木立を照らした。夏目芽依は身を乗り出して見ると、見慣れた車がゆっくりと曲がって入ってきて、門の前に停まった。ガレージのドアは開けなかった。あのシャッターが動くと音がして、寝室からも聞こえるのだ。