「お母さん、もう泣かないで」林田希凛はソファの肘掛けに座り、若松朱音の肩を優しく撫でながら、繰り返し諭した。「もうこうなってしまったんだから、泣いても意味ないでしょう?気持ちを楽にしましょうよ」
若松朱音はすぐにハンカチを投げ捨て、眉をひそめて怒鳴った。「離婚!あの人と離婚するわ!」
「お母さん、落ち着いて。今は感情的になるときじゃないよ。お父さんがこんなことをしたのには、きっと理由があるはず。帰ってきたら、ちゃんと聞けばいいじゃない」
今日の午後、若松朱音はいつものように会社に林田植木を訪ねたが、林田植木が自分名義の株式を密かに吉田左介に譲渡していたことを知り、しかも彼女に一言の相談もなかったことで崩壊した。
「お父さんが何も言わなかったわけじゃないよ。前に話してたじゃない?」林田希凛は若松朱音を慰めようとした。