「文太さん、プロジェクトの進捗報告書をメールに送りました。確認してください。何か問題があればすぐに修正します」
佐藤文太はパソコンを手に外に向かっていた。今日の午後はまだ別のプロジェクトの報告があり、今はクライアント企業に急いで向かっているところだった。
「鈴木くん、夏目芽依の面倒を見てくれないか。今日は用事があって、午後は戻らないんだ」
彼が言った鈴木くんは夏目芽依のチームの同僚で、普段は皆から親しみを込めて伊藤お姉さんと呼ばれていた。伊藤お姉さんは佐藤文太の大学院時代の同級生で、卒業後一緒に朗星に入社した。同じく8年間働いているが、能力不足なのか才能が認められないのか、ずっと平凡なデザイナーのままだった。かつての同級生が出世していくのを見ながら、自分はそのままの状態だった。