「奥様、林田社長は今日会社にいらっしゃいません、本当にいないんです。」
朝早く、若松朱音は怒り心頭で林田グループ本社に乗り込み、受付を通り過ぎて社長室へと直行した。中村秘書は一歩も離れずに後をついて回り、困った表情で説得を試みたが、彼女を止めることはできなかった。
林田夫人の気性は周知の事実で、怒り出すと六親を顧みない勢いで、誰が立ちはだかっても火薬庫の爆発を覚悟しなければならなかった。
「林田植木!林田植木!出てきなさい!あなたが会社にいるのは知ってるわよ!」
最近、株式譲渡の件で二人は激しく対立していた。どれだけ彼女が説得しても、林田植木は自分名義の株式をすべて吉田左介に譲渡すると主張し、誰の言うことも聞かず、しかも朝早くから夜遅くまで彼女を避けていた。
昨夜の喧嘩はまだ終わっていないのに、今朝目を覚ますと彼の姿はすでに消えていた。とんでもない話だ。