二人はしばらく膠着状態が続いた。
夏目芽依は心の中で戻ることを拒んでいたが、契約書は確かに自分が署名したものだった。若くて無知だった自分が悪い、何も知らずに身売り証文にサインしてしまったのだ。「信じられない、見せてよ」
羽柴明彦は彼女に携帯を渡した。
白黒はっきりと書かれていた。当時、彼女は一字一句目にしていたはずなのに、こんな条項があることに気づかなかった。あるいは気づいていたかもしれないが、気にしていなかっただけかもしれない。どちらにせよ、不注意だった。
「とにかく、お金は返すわ」芽依はまだ強がっていた。そんな大金を工面するには、宝くじの一等を10回連続で当てるような奇跡的な運が必要で、税金を引いてもまだ足りないかもしれない。
「いいよ、今すぐ返して」羽柴明彦は携帯をしまい、彼女を見つめた。