夜の9時、夏目芽依は机に向かって残業していると、携帯が光るのを見て、ちらりと目をやった。
「芽依、この前お願いした件、話した?明彦くんは同意してくれた?」
その件は話していないどころか、とっくに忘れていた。彼女が思い出させてくれなければ、そのまま過ぎ去っていたかもしれない。
でもその時約束したのだから、ずっと先延ばしにするわけにもいかない。夏目芽依は少し考えてから、手を伸ばしてメッセージを返した。「ごめんなさいママ、この数日忙しくて手が回らなかったの。できるだけ早く話すわ」
先日彼女は家で休んでいて、毎日昼過ぎまで寝て、自由気ままに過ごしていた。羽柴明彦は朝早くから夜遅くまで外出していて、二人は同じ家に住んでいるのに、顔を合わせる時間はほとんどなかった。この数日また仕事を始めたが、二人はお互いに干渉せず、今がちょうど話すいい機会だった。