第288章 無料で送ります

夜の11時、カレンはグラスを置き、帰る準備をした。

「お嬢さん、どこへ行くの?送ってあげるよ」会計を済ませると、隣から手が伸びてきて彼女を引き留めた。

カレンが振り向くと、見知らぬ男の顔があった。彼女は酒に強かったが、気分が優れなかったため余計に2杯ほど飲んでしまい、今は少し頭がくらくらしていた。おそらくその男は彼女の足取りが不安定なのを見て、近づいてきたのだろう。

「結構です、ありがとう」彼女はその男の腕を払いのけ、出口へ向かいながら、代行運転を呼ぶために携帯を取り出した。今の状態では、どう考えても自分で車を運転して帰るわけにはいかなかったが、かといって金田直樹に電話をかけたくもなかった。

「若い女の子が週末になるとバーに来て泥酔するなんて、どうかしてる」彼はきっとそう言うだろう。この時間は都会の若者たちにとって夜の生活がやっと始まったばかりだというのに。