三十分が過ぎたが、中から出てきたのはたった二組だけだった。
夏目芽依は片足で立ち疲れ、もう片方の足に体重を移した。
「なんでこんなに遅いんだろう…」彼女だけでなく、周りの人々も同じように感じていた。しかし、皆冷淡で、すぐに他人になるであろう相手と何かを共有したくはなかった。
「4番!」
ようやく中から別の一組が出てきた。夏目芽依は振り向いて見た。
「だから言ったでしょ!あなたのことは我慢できないって。昨日はちゃんと約束したじゃない!今日は全部持ってきて手続きするって。なのに婚姻届を持ってこないなんて!わざとやってるの?!」女性は険しい顔つきで、隣の男性を睨みつけていた。
夏目芽依は急いで壁の隅に身を寄せ、この二人が喧嘩を始めて自分に飛び火しないか心配した。
「離婚するのに婚姻届が必要だなんて誰が知るんだよ?システムに記録があるだろ。結婚してなきゃ離婚もできないんだから!婚姻届なんて二度手間じゃないか」男性の態度もあまり良くなかった。