第410章 火に油を注ぐ達人

「ここで止めてもらえれば大丈夫です。送ってくれてありがとう」夏目芽依は礼儀正しくお礼を言い、車から降りる準備をした。

中村景吾は窓の外を見た。

「ここに引っ越してきたの？」

夏目芽依はうなずいた。「入ってすぐ最初の建物です」

中村景吾はため息をついた。「ああ、外での噂は本当だったんだな」

夏目芽依は手がドアノブに触れたところで、その言葉を聞いて手を引っ込めた。「どんな噂？」

「風光グループの社長は利益しか考えない情け容赦ない奴だという噂さ。前はあまり信じてなかったけど、今見るとその通りだな。二人は離婚するとはいえ、こんな場所に追いやるなんてひどすぎる。一日の夫婦でも百日の恩があるというのに、あの人は冷血すぎる」

夏目芽依は彼を見て、説明した。「彼は関係ないわ。私が自分でここに引っ越したいと思ったの」