「あいたっ…痛い…」夏目芽依は首を傾げながら歯を磨き、手を伸ばして首筋を強くもみほぐした。「もう勘弁してよ…」
「芽依、もうすぐ8時半よ、早く出てきて朝ごはん食べなさい」夏目智子は浴室のドアをノックして急かした。
「わかってるよ…」夏目芽依はもごもごと答え、必死に頭を下げて口をすすいだ。この単純な動作さえ、今は命取りになりそうだった。
全部羽柴明彦のせいだ、と彼女は歯ぎしりしながら考え、手を伸ばして脇に置いてある化粧水を取ろうとした。「いたっ…」その動きで首の後ろのどこかの筋を引っ張ってしまったらしく、瞬時に全身が痛みで固まった。
夏目智子は魚のお粥と小鉢を彼女の前に置き、夏目芽依の硬直した体の動きを見て、思わず尋ねた。「どうしたの?昨日はよく眠れなかったの?目の下にクマができてるわよ」