第536章 彼には彼なりの考えがあると思う

羽柴明彦は風呂を済ませ、鏡の前に立って髪を乾かしていた。ふと目をやると、隅に置かれたバイロウオイルが目に入り、彼は一瞬固まった。

全身がマイナスイオンで洗い流されたとはいえ、この物を見ると腹が立った。ニキビを消し、シミを薄くし、妊娠線を改善する…そんな言葉を思い出すだけで、侮辱されたような気分になった。

視線はその小さなボトルから自分の顔へと移った。

正直なところ、男性の基準で言えば、彼の肌は悪くない方だった。それは長年の丹念なケアの結果ではなく、おそらく生まれつき、あるいは実母から受け継いだものだろう。ただ…

羽柴明彦はドライヤーを脇に置き、首に掛けていたタオルを外して、ゆっくりと体を回し、鏡に映る自分の背中を見た。そこには縦横に走る傷跡があり、もはや恐ろしい鮮血の色ではないものの、依然として目を引くほど痛々しかった。