観察室のドアがまた一度開かれ、中村景吾が顔を上げると、実の兄である中村海斗が入り口に立っていた。
彼は前に歩み寄り、景吾の腕を見て、「大丈夫か?」と尋ねた。
「ああ、大丈夫だよ」景吾は頭を振った。「ちょっとした怪我だけで、死ぬほどじゃない」
「どうしたんだ?」
「大したことじゃないよ。レストランから帰る途中、どこからともなく野良猫が飛び出してきて、避けきれずに木にぶつかっちゃったんだ。フロントガラスも丈夫じゃなかったから、こうなっちゃった」
海斗は軽く鼻を鳴らし、眉をひそめて彼を見た。「お前、酒を飲んでたのか?」テーブルの上に見た半分ほど飲まれた貴腐ワインを思い出し、はっとした。「酒を飲んだ後に車を運転したのか?!」
「いやいや、そんなに飲んでないよ。ほんの数口だけだって」景吾は何でもないように言った。「全部あの野良猫のせいだよ。酒とは全く関係ないって。兄さん、いつもそうやって…」