秋山直子はトイレの便座に座り、黒いイヤホンのコードを指で弄んでいた。
個室のドアは半開きだった。
ドアの外で慌ただしい足音がし、制服を着た女子生徒がドアを開けた。
突然、彼女は固まった。
便座に人が座っているとは思わなかった。その人は目つきが鋭く、表情は冷たく傲慢で、無関心そうに口角を上げていた。個室の小窓から差し込む薄暗い光が彼女の顔に当たり、とても美しく見えた。
ドアを開けられたのを見て、相手は彼女に向かって眉を上げた。その仕草は派手で鋭かった。
「ご、ごめんなさい!」女子生徒の顔が少し赤くなり、ドアを閉めて別の個室のドアを開けた。
秋山直子の表情は変わらなかった。
彼女は相場の10倍もの価格を提示していた。明らかに注文を受けたくなかったのだ。以前に誰かが注文したのはまだいいとして、今度はさらに5倍の値段を出すバカまで現れた。