338 継承人(一更)

後ろ姿は少し冷たく見え、近寄りがたい雰囲気だった。

氷川珊瑚は一瞬驚き、南雲慧の側に歩み寄った。「あれは……」

「直子の荷物を片付けている人よ。彼女はもう寮に住まないの」南雲慧は顔を傾げて説明した。

家族?

氷川珊瑚は色々と想像を巡らせた。

神崎木はすでに荷物を片付け終えていた。左手で黒いスーツケースを引き、右手で植木鉢を抱え、凛とした体格に冷たく硬い表情、無愛想で、目からは冷光を放っていた。

「神崎木さん?」氷川珊瑚はほとんど声を失いそうになりながら口を開いた。

神崎木はスーツケースを軽々と引きながら出て行こうとしたが、氷川珊瑚の声を聞いて立ち止まり、彼女を一瞥した。秋山直子のルームメイトだと気づき、礼儀正しく挨拶しようとした。

「私は大江薫のいとこで、前に従姉の誕生パーティーでお会いしました」氷川珊瑚は指で手のひらを軽く押した。