卓田越彦はビデオを消し、手早くスープを受け取った。匂いが少し変だった。
「お兄ちゃん、母さんが煮込んだの。ちょっと臭いけど、その傷にはとても効くし、頭も良くなるわよ」
卓田越彦は一気に飲み干し、冷ややかに鼻を鳴らした。「俺の頭脳なら、補強なんて必要ない。お前こそ必要だろう」
「お兄ちゃん、お嫁さんの写真ない?私も見たいな」
卓田礼奈は好奇心いっぱいの顔をしていた。彼女が学校から帰ってきたとき、病院にいた鈴木玉子は偽物で、兄が好きな人ではないと聞いた。
しかも、あの一家はとても悪い人たちだった。
「無駄口を叩くな、出て行け。休みたい」
卓田越彦には鈴木音夢のことを彼女と話す気分はなかった。
卓田礼奈はまだ聞きたいことがあったが、彼がすでにイライラした表情を見せていたので、諦めるしかなかった。
「じゃあ出るわ。ゆっくり休んで。傷はまだ完全に治ってないんだから」
卓田礼奈は茶碗を持って出て行った。兄が今回、母の作ったスープを飲んでくれたことを母に伝えれば、きっと母はどれほど喜ぶだろう。
兄は表面上、冷たく見える人だ。
でも家に何かあるたびに、真っ先に対処しに来るのは誰?
あのお嫁さんが早く見つかればいいのに。そうすれば、兄に寄り添う人ができる。
あんなに冷たい人に、そばに寄り添い、孤独を癒してくれる人がいたら、どんなに素敵だろう?
アメリカ・フィラデルフィアで、鈴木音夢は農場の人々と徐々に打ち解けていた。
彼女にはパスポートがなく、国に帰るには密入国するしかなかった。
密入国には一定の危険性があり、費用もかなりかかる。
彼女は一生懸命にお金を稼ぎ、生き延び、国に帰る機会を探さなければならなかった。
あっという間に、鈴木音夢は農場で半月を過ごした。毎朝、新鮮な牛乳を飲むと吐き気がするほかは、すべて順調だった。
彼女はもともと適応力が非常に強い人で、幼い頃から飢えや暴力に耐え、どんな汚い仕事や重労働もこなしてきた。
彼女にとって、農場で牛の乳を搾ったり、草を与えたりするのは、比較的楽な仕事だった。
夕暮れ時、日が西の山に沈み、広大な夕焼けが草原に広がり、草原全体が金色に輝いているようだった。
一台のジープが少し起伏のある山道を走ってきて、農場主が夕焼けを背に車から降りてきた。