卓田越彦は時間を確認した。「もういいよ、変なことを考えないで。あと30分待っていて。仕事を片付けたら、外に連れ出すから」
そういえば、彼らはまだ正式なデートをしたことがなかった。
卓田越彦はそういうことを気にしないタイプだったが、他の人ができることなら、彼もチビのためにできるはずだ。
「おじさま、急いで仕事に戻ってください。私のことは気にしないで」
鈴木音夢はもう落ち着いていて、服を着替え、ついでにベッドシーツも片付けた。
なんて恥ずかしいんだろう。おじさまが怒らなかったのが幸いだった。
オフィスの外では、社長が史上初めて女性を執務室に連れ込んだという噂で持ちきりだった。
しかも、入ってからずっと出てきていない。
これはいつもの仕事人間の社長らしくない行動だった。さらに驚いたことに、社長は記者のインタビューにも応じたという。
オフィスの中で、鈴木音夢は休憩室から出てきたが、自分が会社中の話題の中心になっていることにまったく気づいていなかった。
あの男性は広い机に座り、電話をかけていた。
真剣に仕事をする男性が一番かっこいいと言うが、彼がそこに座っている姿は、まるで天下を指揮する君主のようだった。
鈴木音夢はうっとりと見とれてしまい、しばらくぼんやりと彼を見つめていた。
卓田越彦は彼女が出てきた瞬間から、すでに彼女に気づいていた。
しかし、チビのあの崇拝するような表情は、彼を十分に喜ばせた。
彼に夢中になる女性は多かったが、そういう女性たちは卓田越彦の目には、ただ目障りなだけだった。
でもチビは違う。彼女がどんな表情をしていても、彼の目には可愛らしく魅力的に映るのだった。
彼は電話をかけながら、彼女に手を振った。
鈴木音夢はいつも彼の命令に従う習慣があったので、彼が手を振ると、すぐに近づいていった。卓田様が何か指示するのだろうと思って。
ところが、彼の側に着くと、大きな手で引っ張られ、彼女は彼の太ももの上に座らされてしまった。
彼は今仕事中だということを知っているのだろうか?
こんなことをして、本当に大丈夫なのだろうか?
鈴木音夢は電話の相手に気配を察知されるのではないかと恐れ、身動きひとつしなかった。
彼女が想像もしなかったのは、この男が悪戯に彼女の服の中に手を入れてくることだった。