第260章 言い争いになったら彼女にキスする4

川原欣枝は歩み寄って、「音夢さん、どうしてここに来られたのですか?社長は執務室にいませんよ」

鈴木音夢は彼がいないと聞いて、眉をひそめた。「川原秘書、卓田越彦が執務室にいないなら、どこに行ったの?」

「今夜は会食があります。星川メディアの買収に関する件で、社長は御水軒で接待中です」

川原欣枝は彼女に隠し立てはしなかったが、少し不思議に思った。彼女が社長を探しているなら、直接社長に電話すればいいのに。

社長の彼女への寵愛ぶりからすれば、社長のスケジュールを知りたいなら、全く難しくないはずだ。

何年も彼の秘書を務めてきたが、社長がこれほど一人の女性に尽くすのは初めてだった。

しかも、彼らの婚約の知らせは、すでに卓田家の広報部から正式に発表日が公表されていた。

「わかりました。ありがとう、川原秘書。私は先に行きます」

鈴木音夢は卓田越彦が御水軒にいると聞いて、急いで振り返り、エレベーターに乗り込んだ。

彼女は今夜、彼に説明しようと思っていた。彼女と古田静雄の間には何も起こっていないこと、彼が思っているほど不埒な関係ではないことを。

それに、もし古田静雄がいなかったら、彼女と杏子はどうなっていたかわからない。

30分後、鈴木音夢は御水軒に到着した。

しかし、御水軒は高級会員制クラブで、会員カードがなければ入れない。

鈴木音夢は仕方なく、正面玄関で待つことにした

夜が深まり、街の灯りが輝き始めると、音夢のお腹が鳴り始めた。

彼女は少し腹立たしく思った。卓田越彦、この馬鹿、私をここで飢えさせて、後で会ったら、あんたの肉を食べてやる。

しばらくして、音夢はどうしようもなく空腹になった。

仕方なく、隣のパン屋に走って行き、パンを一つ買って食べた。

今の彼女は、まるでパパラッチのように卓田越彦を待ち構えているような気分だった。

でも今夜、彼にきちんと説明しなければ、帰っても眠れないだろう。

鈴木音夢は花壇の縁に座り込み、パンを食べながら正面玄関を見つめていた。

御水軒の個室では、卓田越彦と一緒に座っているのは、永崎城の名士たちばかりだった。

本来、星川メディアの買収の件も、完全に鈴木音夢のためだった。

当初、鈴木音夢が帰国したとき、彼は彼女が女優になりたがっていると思い、有名になるために、あのような映画に出演したのだと考えていた。