第265章 言い争いになったら彼女にキスする9

鈴木音夢はあちこちさまよっていたが、午後になってようやく群衆演技の役を見つけた。死体役だった。

死体を演じるのに技術的な難しさはないが、鈴木音夢はこれが自分の労働で得たお金だと思い、人に見せられないようなことではないと感じた。

どうせ、そう遠くない将来、永崎城の人々は皆、彼女がシンデレラのように卓田家のお坊ちゃまに婚約を破棄されたことを知ることになる。

死体役を終えて、鈴木音夢はお金を受け取り、他にスタントの仕事がないか探そうとしていた。

そのとき、大勢の人々が堂々と入ってきた。

鈴木音夢は先頭を歩く美しい女性を見て、思わず足を止めた。

あれは今人気の一線級スター、葉山桐子ではないか?

あの夜、卓田越彦が彼女を呼んだ声は何と親しげだったことか。桐果、と。ふん!

鈴木音夢は心の中で歯ぎしりしながら、葉山桐子を見れば見るほど吐き気を覚えた。