卓田礼奈は畑野潤矢を連れて自宅の裏庭に行き、手に持っていたバラの花束を使用人に渡して花室に入れてもらった。
畑野潤矢は少し先にあるブランコを見て、思わず言った。「礼奈、覚えてる?小さい頃、君はブランコが大好きで、いつも僕に後ろから押してもらってたよね」
卓田礼奈はそのブランコを見て、冷たく鼻を鳴らした。「よくそんなこと言えるわね。あの時、あなたが強く押しすぎて、私が落ちたじゃない」
畑野潤矢は鼻をこすりながら、その出来事を思い出し、心の中で当時はとても申し訳なく思っていた。
「ごめん。今、乗ってみない?今度は絶対落とさないから」
卓田礼奈も退屈していたし、前庭で鈴木世介と古田静美が親密にしている姿を見たくなかった。
だから、彼女は畑野潤矢をここに連れてきたのだ。
自分がまだ少し幼稚で、少し卑怯だとも感じていた。
実は彼女は少し企んでいた。もし鈴木世介が彼女が他の男性と一緒にいるところを見たら、彼は怒るだろうか?
しかし、今の彼女のやり方は完全に無駄だった。
鈴木世介が彼女のために嫉妬するなら、彼女が2年間も彼を追いかけても一度も笑顔を見せなかったりはしないだろう。
もし彼が彼女のことを気にかけているなら、あの日、空港で古田静美の前で彼らの関係を否定したりしなかっただろう。
あの時、彼女は他の女性に彼を奪われるのを恐れて、わざと彼の腕を組んでいた。
なんて恥ずかしいことだろう、卓田礼奈は自嘲せずにはいられなかった。
畑野潤矢は彼女が不機嫌そうなのを見て、後ろから優しく押しながら言った。「礼奈、君が医学を勉強していると聞いたよ。僕も永崎城で働くことになるんだ」
「あなたは畑野家のビジネスを引き継ぐんでしょ?」
畑野家には彼一人息子で、自分の兄と同じように、家族のビジネスを引き継がなければならない。
「うん、そうだね。明日、大介たちがダムに釣りに行くんだけど、礼奈、一緒に行かない?」
卓田礼奈は今、そんな気分ではなかった。頭の中はまだ鈴木世介のことでいっぱいだった。
「明日はやめておくわ。試験があるから」
「じゃあ、土曜日は空いてる?土曜日はどう?」
卓田礼奈は少し考えて、出かけて気分転換するのもいいかもしれないと思った。
そうすれば、一日中妄想にふけることもないだろう。