福井斗真の腕の中が突然空になり、顔を上げると安藤玄が警戒心いっぱいの表情で自分を見ていた。彼は心の中で何とも言えない不快感を覚え、冷たい目で安藤玄を見つめた。安藤玄は少しも怖がらず、振り返って真っ赤な顔をした姉を見て、福井斗真を一瞥した後、話題を変えて姉と福井斗真を引き離そうとした。
「姉さん、甥っ子を見せてくれるって言ってたじゃない。甥っ子はどこ?会いたいな」
安藤凪はすぐに我に返り、福井斗真に微笑みかけた。「弟を連れて赤ちゃんを見に行くわ」
そして安藤凪は安藤玄を連れて階段を上がり、福井斗真一人をリビングに残した。彼のあんなに大きな妻が他の人についていってしまったのだ。福井斗真は歯ぎしりしながら、後を追って上がっていった。
安藤玄は本来、姉を福井斗真の魔の手から救い出す口実を探していたのだが、ベビーベッドの中で、ぶどうのような大きな目で自分を見つめる小さな赤ちゃんを見た途端、心が溶けそうになった。思わず手を伸ばして赤ちゃんに触れようとしたが、姉が嫌がるかもしれないと恐れ、赤ちゃんの前で手を2秒ほど止めた後、最終的に引っ込めた。
そのとき、赤ちゃんが突然手を伸ばして安藤玄の指をつかんだ。安藤玄は目を見開き、まるで凍りついたかのように動けなくなった。小さな子の手はふわふわと柔らかく、安藤玄は思わず安藤凪の方を見た。
安藤凪は彼のその動けない様子を見て、思わず笑い声を上げた。「玄、弟が君のことを気に入ったみたいね。この子はとても人を選ぶのよ。気に入らない人には余計な視線さえ向けないんだから」
赤ちゃんが自分を好きだと知り、安藤玄は心の中で飛び上がるほど興奮した。彼は赤ちゃんとしばらく遊んだ後、自分の首から何かを取り外し、赤ちゃんのベッドの傍に置いた。
安藤玄は少し照れくさそうに言った。「初めて赤ちゃんに会うのに、何も準備してこなかった。これは母が私がまだ赤ん坊の頃にくれたものなんだ。ずっと身につけていたけど、今は赤ちゃんにあげるよ。借り物の贈り物みたいなものだけど」