つまり、あの男性は福井グループの社長、福井斗真だったということだ。なるほど、彼が高貴な雰囲気を漂わせていたのも納得だ。たった一度の出会いなのに、こんなに長く心に残っていたわけだ。
彼女は興奮する一方で、自分は終わったと感じた。
目の前の人が本当に安藤凪なら、名簿の差し替えのことがバレてしまう。全身から力が抜け、手に持っていた携帯電話をしっかり握れずに、パタンと床に落としてしまい、画面がクモの巣状に割れた。
「あなたは本当に安藤凪なの?」鈴木雪乃は最後の一縷の望みを抱きながら、安藤凪をじっと見つめた。
安藤凪はうなずいた。「間違いないわ」
彼女はそう言うと、床に落ちて画面が割れた携帯電話に視線を向けた。福井グループの社員を知っている人物は鈴木雪乃ではなく、木村仁東だった。ということは、自分が除外したはずの二人の名前が、他の人に差し替えられた可能性が高い。