第511章 拒絶

つまり、あの男性は福井グループの社長、福井斗真だったということだ。なるほど、彼が高貴な雰囲気を漂わせていたのも納得だ。たった一度の出会いなのに、こんなに長く心に残っていたわけだ。

彼女は興奮する一方で、自分は終わったと感じた。

目の前の人が本当に安藤凪なら、名簿の差し替えのことがバレてしまう。全身から力が抜け、手に持っていた携帯電話をしっかり握れずに、パタンと床に落としてしまい、画面がクモの巣状に割れた。

「あなたは本当に安藤凪なの?」鈴木雪乃は最後の一縷の望みを抱きながら、安藤凪をじっと見つめた。

安藤凪はうなずいた。「間違いないわ」

彼女はそう言うと、床に落ちて画面が割れた携帯電話に視線を向けた。福井グループの社員を知っている人物は鈴木雪乃ではなく、木村仁東だった。ということは、自分が除外したはずの二人の名前が、他の人に差し替えられた可能性が高い。

そう考えると、安藤凪の心には怒りが湧き上がった。

こんなに大胆不敵な人間を見たことがない!

もし調査して犯人が分かったら、絶対に許さないつもりだ。

「安藤社長、連絡先を交換していただけませんか?信じています、安藤社長。すみません、さっきは迷ってしまって、あなただと気づかなくて。でも信じています、きっと公平に対応してくださると」

赤松紫花は恐る恐る安藤凪を見つめながら言った。

彼女は、安藤凪が先ほど自分に拒否されたことで怒り、連絡先の交換を断るのではないかと心配していた。

安藤凪はそんな小さなことで怒るような人間ではなかった。それに、赤松紫花が良い子だということは見て取れた。あの澄んだ目は嘘をつけないものだ。彼女はうなずき、携帯を取り出して赤松紫花と連絡先を交換した。

傍らでずっと見ていた人々も、この時になって安藤凪の連絡先を求めようとした。安藤凪の連絡先を手に入れれば、福井グループに片足を突っ込んだも同然だし、しかも安藤凪との繋がりなんて、言うだけでも面目が立つ。

「安藤社長、私も連絡先をいただけませんか!」

「安藤社長、私も連絡先が欲しいです」

これから卒業する学生たちは、まるでアイドルを追いかけるファンのように熱狂していた。傍らの赤松紫花は、自分が連絡先を交換しただけで安藤凪にこんな大きな迷惑をかけてしまったことに気づき、申し訳なさそうに安藤凪を見た。