第571章 逮捕される

「弟よ。」安藤凪は、今しがた足を引っ込めた人物が安藤玄だと知って、驚きの声を上げた。林子成も少し意外そうに安藤玄を見た。彼は安藤凪に最近認知された実の弟がいることを知っていたが、この人物がそうなのだろうか。

「姉さん、大丈夫?さっきお客さんを見送ったところで、誰かがあなたを襲っているのを見たんだ。この男は誰なんだ?よくもまあ、白昼堂々と襲いかかるなんて、本当に福井グループに誰もいないと思ったのか」

安藤玄は心配そうに安藤凪を見つめ、犯人について触れる時には表情が厳しくなった。安藤凪は首を振って、「私も本当にこの人が誰なのか分からないわ」と言った。

その男は全身をしっかりと包み隠し、口と目だけを出していた。たとえ実の母親がここに立っていても、おそらくこの人物が誰なのか分からないだろう。安藤凪たち三人はその男の方を見た。

安藤玄は素早く男の側に駆け寄り、しゃがみ込んで男の顔の覆いを引きはがした。普通で少し醜い顔が皆の前に現れた。

林子成と安藤凪はその顔を見た瞬間、思わず目を合わせ、口を揃えて言った。

「この人だ」

「誰なんだ?姉さん、知り合い?俺は見たことないけど」安藤玄は自分だけが蚊帳の外に置かれているように感じ、思わず尋ねた。

安藤凪は呆れた表情で事の顛末を説明した。目の前のこの男は他でもない、さっきまでグループチャットで暴れていた田中志峰だった。彼はチャットで安藤凪に警告し、必ず仕返しすると言っていたが、安藤凪はただの脅しだと思っていた。まさか本当に実行するとは。

この男の頭はおかしいのではないか。安藤凪はそう言いながら、田中志峰がまだ自分を襲おうとしているのを見た。彼は自分の動きが小さいと思って、脇に落ちたナイフを手探りで探そうとしていたが、その行為は隠れて鈴を盗むようなものだった。

皆は彼の行動をすべて見ていた。安藤玄はすぐに歩み寄り、彼の手首を踏みつけ、ナイフを蹴飛ばした。手首の痛みに田中志峰は悲鳴を上げ、豚を絞めるような声に、安藤玄は不快そうに耳をほじった。

「自分に能力がないくせに、人に仕返しするなんて、誰に勇気をもらったんだ。姉さん、今すぐ警察に通報して、こいつを逮捕させよう」安藤玄はそう言いながら、携帯を取り出して110番しようとした。