第020章 好きなら、どうぞ使って

上野卓夫は眉をひそめたが、声を出さなかった。

目の前の小さな女性が彼の手の甲に赤い跡をつけるのを見ていた。

昨夜、彼女が彼の背中につけた爪痕を思い出し、彼は彼女の艶やかな唇を見つめ、喉仏が上下した。

彼の瞳は、暗く沈んでいった。

洗面所では水が流れていた。

二人は入って30分経っても出てこなかった。

会話も聞こえなかった。

上野お婆さんは自分で料理するのが面倒になり、料理人に任せて、リビングのソファに座った。

分針を数えながら。

年月を刻んだ顔に明るい笑顔が広がっていた。

どうやら、彼女の大切な孫は滋養強壮剤など必要ないようだ。

むしろ、これからは使用人に赤ちゃん部屋の準備をさせなければならないだろう。

丸一時間。

洗面所のドアが開いた。

秋田結がそこから出てきた。

小さな顔は赤く染まっていた。