第251章 誤認、すれ違い(3)

上野卓夫は電話を切り、隣にいる伊藤明史が何か考え込むように自分を見ていることに気づいた。

少し考えて、彼は伊藤明史に言った。「用事があって山を下りなければならない。忠誠に一言伝えておいてくれ。」

言い終わると、すぐに立ち去った。

伊藤明史の声が彼の背後に響いた。「上野卓夫、三井おばさんに会いに来たんじゃないのか？墓前にも行かずに帰るとはどういうことだ？」

上野卓夫は足早に歩き、後ろの伊藤明史の言葉には応じなかった。

山の風が彼の衣服の裾をなびかせ、彼の焦りを伊藤明史の目に映し出した。伊藤明史は目を細め、考え込むように彼が山を下りていく後ろ姿を見つめていた。

こんなに急いで。

もしかして上野お婆さんに何かあったのだろうか？

いや、違う。

本当に上野お婆さんに何かあったなら、上野卓夫はきっと直接言っただろう。