上野卓夫は片手で茶碗を支え、もう片方の手で箸を持っていた。
上体を少し前に傾け、テーブルの向こう側にいる秋田結を見つめ、彼女の冷たい瞳を凝視していた。
彼は淡々と言った。「彼女のことは私とは何の関係もない。ただ知りたいのは、彼女のでたらめな話があなたに影響を与えて、気分を悪くさせたかどうかだ」
「……」
秋田結は一瞬固まった。
彼女が知っている上野卓夫は、これまで自分を抑えることを知らず、常に鋭さを外に出していた。
話すときも他人の気持ちを考慮しなかった。
今回帰国して、最初は以前より控えめになったと思っていた。
しかし後になって気づいたのは、実は変わっていないということだった。
上野卓夫をじっと見つめた。
秋田結は箸を置き、立ち上がって食堂を出た。
上野卓夫は彼女がどこへ行くのか尋ねなかったが、彼女の細い背中を目で追った。