車に乗り込むと、上野卓夫は傘をたたみ、秋田結に上着を脱がせて後部座席に置かせた。
車を発進させようとした瞬間、彼の携帯電話が鳴った。
木村峰からの電話だと分かると、上野卓夫の表情が一瞬変わった。
長い指で通話ボタンを押し、「もしもし」
「旦那様、お婆さまが先ほど倒れられて、今救急処置室に入られました」
「どうして倒れたんだ?」
上野卓夫は沈んだ声で尋ねた。
大きな手がハンドルに置かれた。
隣で、秋田結は心配そうに彼を見つめていた。
上野卓夫はスピーカーをオンにし、木村峰の声が携帯から流れてきた。「分かりません。お婆さまは今日の午後、外部の方には会われておらず、看護師が二回来ただけです。その看護師が二回目に帰った後、5分もしないうちにお婆さまは倒れられました」
突然、木村峰の声のトーンが変わった。「旦那様、お婆さまがメールを受け取られていました」