秋田結は思いもよらなかった。上野卓夫がドライバーとして彼女を職場に送るのではなかったことを。
どこからか自転車を手に入れていたのだ。
彼女が小区域から出ると、自転車にまたがった男性が、顔を向けて彼女を見た。
朝日に縁取られた顔立ちは半分隠れ半分見え、ハンサムでセクシーだった。「結ちゃん、乗って」
秋田結は少し躊躇した。
彼の前に歩み寄り、彼の自転車を見下ろして尋ねた。「乗れるの?」
「乗ったことあるだろ」
上野卓夫は振り返って彼女を見た。
彼女の眉目を映す深い瞳には柔らかな光が宿っていた。
その口元の微笑みは、眩しいほど素敵だった。
秋田結は彼の昔の運転技術をからかった。「昔はいつも自転車に乗っていたけど、ふらふらして左右に揺れてたじゃない。今はどれくらい乗ってないの?技術は前より良くなってる?」