上野卓夫の足が止まった。
振り返って半開きのドアの個室を見た。
中に座っている人が、さっき彼を押しのけて逃げた秋田結だと分かった。
個室内の会話を聞いて、彼の深い瞳に鋭い光が走った。
薄い唇を少し引き締めた。
立ち止まることなく、階下の駐車場へ行って彼女を待つことにした。
「あの...お二人とも。」
個室内。
秋田結は混乱から立ち直り、冷静に言った。「残念ですが、私は既婚者で、しかも子供が二人います。」
「え...本当?」
松井さんは目を丸くした。
冨井明嵐も驚いていた。彼女の息子は秋田結を数年知っているのに。
しかし息子から秋田結に二人の子供がいるとは聞いていなかった。
「はい。」
秋田結の顔に薄い笑みが浮かんだ。
断りの意思は既に明らかだった。
しかし、彼女が全く予想していなかったのは。