片桐美咲は病気で弱々しくベッドに横たわり、白い小さな顔は紅潮し、少女の眉目は愛欲に潤された後の艶やかさを漂わせていた。
昨夜……
昨夜のことを思い出すと、彼女は恥ずかしさのあまり布団の中に潜り込んだ。
今思い返しても、心にはまだ甘さが残っていた。彼女は顔を上げ、椅子に掛けられた男性用のスーツを見た。
彼女は軽く唇を噛み、起き上がってスーツを手に取った。どういう心理からか、彼女は頭を下げてスーツの匂いを嗅いだ。
あの人の体の匂いと同じで、タバコとミントが混ざった大人の男性の香り、清々しく良い香りだった。
そのとき、ドアがノックされた。
片桐美咲はびっくりして、急いでスーツを布団の中に隠した。
「誰?」
ドアの外から片桐陽向の低い声が聞こえた。「俺だ。」
片桐美咲は心が慌て、急いでベッドから起き上がって座り直した。片桐陽向に異変を気づかれないよう、髪をかき上げて首筋のキスマークを隠した。
「おじさま、どうぞ。」
ドアが開き、片桐陽向の長身で端正な姿がドア口に現れた。
彼は入ってきたが、ドアを閉めなかった。
片桐陽向はベッドから二、三歩離れたところに立ち、目を伏せて片桐美咲を観察した。病気で弱っているように見えたが、顔色は非常に良かった。
彼の視線は下に移り、片桐美咲の手首につけられた小豆の珠串に落ちた。間違いない、昨夜久保海人の車の中にいた人物は確かに片桐美咲だった。
片桐美咲は片桐陽向に見られて心が落ち着かなかった。
昨夜、片桐陽向は彼女に何度も電話をかけてきたが、そのとき彼女はあの人と車の中で離れがたい状態で、片桐陽向の電話に出る余裕がなかった。
後で情事が終わった後、彼女はようやく片桐陽向に自分がどこにいるか伝えていないことを思い出し、彼が自分を探しているかもしれないと気づいた。
彼女は急いで片桐陽向にメッセージを送り、同級生に会って一緒に出かけたこと、自分で帰れることを伝えた。片桐陽向は「うん」という簡単な返事だけをした。
今、彼女は心が虚ろだった。
おじさまの視線が彼女を見透かしているように感じた。「おじさま、何かご用ですか?」
「おばあさまから君が病気だと聞いて、様子を見に来た。」片桐陽向は高い位置から彼女を見下ろした。