073 惜しくなった

森川萤子が病院に着いたとき、久保海人はすでに帰っていた。彼女はベッドサイドテーブルに置かれた花と果物を見た。

「田中さん、誰が病院に来たの?」

「久保婿さんです。若松さんと少し一緒に座って、それから帰りました」田中さんは森川萤子を脇に引き寄せ、小声で言った。「彼が若松さんに何を言ったのか分かりませんが、若松さんはとても動揺して、主治医まで呼ばれることになりました」

森川萤子は下唇を噛みしめた。「ありがとう、田中さん。何かあったら帰ってもいいですよ。今夜は私が付き添います」

「わかりました」

田中さんが去った後、森川萤子はベッドの横に座り、枕の横に置かれた弁護士からの通知書を見つけた。

森川萤子の表情が微かに変わった。

彼女は身を乗り出して通知書を取り出した。案の定、彼女が弁護士に頼んで久保海人に送らせたものだった。

若松様が目覚めたばかりなのに、久保海人は弁護士の通知書を持って彼女を刺激しに来たのか。彼は一体何を考えているのだろう?

森川萤子は急に立ち上がり、電話をかけようとしたところ、骨と皮だけになったような痩せた手に手首を掴まれた。

「どこに行くの?」

森川萤子が振り向くと、若松様が目を開けていた。彼女は言った。「お母さん、大丈夫?」

若松様は彼女の手にある通知書を一瞥し、彼女の手を放した。

「離婚は許さないわ」

森川萤子は唇を引き締め、座り直して通知書を脇に投げた。「それは後で話しましょう。今はどう感じてる?」

「死にはしないわよ!」

「お母さん!」

「何を騒いでるの?」若松様は力なく彼女を睨みつけた。「あなたがこんな風に振る舞い続けるなら、私はいずれあなたの手で死ぬことになるわ」

森川萤子は針のむしろに座っているようで、目を赤くして若松様を見つめた。「お母さんは目覚めたばかりだから、喧嘩はしたくないの」

「森川萤子、あなたは海人のことが好きだったじゃない。なぜ離婚したいの?」若松様は彼女の考えが理解できなかった。

「今は好きじゃないわ」

若松様は歯ぎしりした。「ふざけないで。結婚を何だと思ってるの?好きじゃないからって離婚するなんて。他人があなたをどう見るか考えたことある?」

「お母さん、今は旧社会じゃないわ。離婚したからって恥辱の柱に縛り付けられるわけじゃない。それに、彼が私に何をしたか知ってる?」