森川萤子は衛兵について片桐邸に入った。久保家の数百畝を占める大邸宅に比べると、片桐邸はずっと控えめだった。
ここは片桐拓真の住まいであり、この老革命家一貫した清廉さを保っていた。
入口には多くの鉢植えが置かれ、丁寧に手入れされていた。近くには片桐润平のおもちゃの車もあった。
片桐邸は生活感が濃く、森川萤子はここに足を踏み入れても緊張を感じなかった。
神崎静香はリビングで彼女が最近手に入れた蘭の鉢を弄っていた。蘭の成長状態はあまり良くなく、葉が萎れ始めていた。
客が来たのを見て、神崎静香は使用人に蘭を窓際に移動させるよう指示し、顔を上げて森川萤子を見た。
神崎静香は森川萤子を観察した。
赤い唇に白い歯、黒くて長いストレートヘア、黒いノースリーブの足首まである長いドレスを着て、栗色のバイオリンケースを背負っていた。全体的に大人しくて従順な印象だった。