126 今夜彼女を抱く

久保海人は顎のラインを引き締め、黙ったまま何も言わなかった。次の瞬間、枕が彼の顔に投げつけられた。

片桐美咲は人を殴った後、涙がビーズのように流れ落ち、先ほどの威勢は消えていた。

「久保海人、あなたと私...ただの遊びだったの?」

久保海人は彼女の背中を見つめ、耳には彼女の悲しげなすすり泣きが聞こえてきた。彼は身を乗り出し、後ろから彼女の腰を抱きしめた。「違う。」

あの夜、ショーの外で片桐美咲を見たとき、彼女が自分に向かって歩いてくる姿、前髪がぱっつんと切りそろえられ、肩にかかる長い髪、JK学生風のシャツとスカートを着ていた。

一瞬、彼は5年前の森川萤子との卒業パーティーの夜を思い出した。

森川萤子が初めてプリーツスカートを着て、いつもの高いポニーテールを下ろし、肩に自然に流れる髪、おとなしく、純粋で、無邪気な姿。

そんな彼女は信じられないほど美しく、ほぼ即座に彼の心を奪っていった。

あの夜の片桐美咲は、彼にその血が沸き立つような衝動を再び感じさせた。

そのため、彼は片桐美咲の身元を調べる暇もなく、彼女を車に連れ込んで彼女を求めた。

彼は片桐美咲がただの代役に過ぎないことを知りながらも、彼女の中に久しく忘れていた情熱を見出した。

久保海人の「違う」という言葉を聞いて、片桐美咲の宙に浮いていた心は元の場所に戻った。彼女は振り返って彼を抱きしめた。

「海人さん、愛してる、本当に大好き、大好き。」片桐美咲は顔を上げ、夢中で彼の薄い唇にキスした。

久保海人は手を上げて彼女の後頭部を押さえ、そのキスを深めた。

片桐美咲は頭を後ろに傾け、完全に身を捧げる姿勢で、自分自身を彼に完全に献上しようとした。

すぐに、二人は再び絡み合い、明日がないかのように情熱に身を任せた。

*

森川萤子は昏睡状態から目覚めると、窓の外は空が低く垂れ込め、都市のネオンが空の半分を照らしていた。

彼女は薄い白檀の香りを嗅ぎ、隣に誰かが座っているのを感じた。彼女は顔を上げてその方向を見た。

片桐陽向は手に本を持っていた。『トゥルーマンの世界』だった。彼女が体を起こして座ると、オフィス全体がフロアランプ一つだけで照らされていることに気づいた。

ランプは目に優しい暖かい黄色に調整され、片桐陽向はその光の下で本を読んでいた。横顔は玉のようだった。