森川萤子は衝動に駆られて国境の町に飛んできたが、実際には何をしに来たのかまったく考えていなかった。
しかし、実際にここに来ると、彼女の思考が一気に明確になった。
彼女が国境の町に来たのは、失った1年間の記憶を取り戻すためだったが、どこから探せばいいのだろうか?
森川萤子は頭を抱えていると、前の席の運転手がバックミラーを通して彼女を何度も見た。「お嬢さんはどこから来たの?」
森川萤子:「東京から。」
「首都か、いいところだね。なるほど、一目見ただけで気品があるわけだ。観光に来たのかい?」運転手は熱心に彼女と会話を続けた。
森川萤子は中年の運転手を見て、その朴訥とした様子に、彼の熱意に嫌悪感を抱くことはなかった。
「うん、ちょっと見に来ただけ。」
「それなら来るところは間違ってないよ。」運転手はこの町の観光スポットや美食について紹介し始めた。
道中、森川萤子は時々相槌を打ち、短い旅程も寂しくはなかった。
車を降りる直前、運転手は神秘的な様子で言った。「お嬢さん、初めて来たんだから、絶対に梨区には行かないでね。」
森川萤子は好奇心をそそられた。「梨区ってどんな区なの?」
「あそこは人身売買業者の集まる場所で、特にあなたのような綺麗なお嬢さんを誘拐するんだ。一人旅だから、気をつけないとね。」運転手は親切に忠告した。
森川萤子はうなずいた。「ありがとう、おじさん。気をつけます。」
車代を払い、森川萤子は車のドアを開けて降りた。目の前は交番だった。彼女は厳かな交番の入り口に立ち、しばらく躊躇した後、足を踏み入れた。
交番の大ホールはとても賑やかで、お年寄りたちが集まり、不孝な子供たちが養ってくれないと泣き訴えていた。また、家の犬が見つからない、猫が行方不明になったなど、すべて頭を悩ませる些細な問題だった。
森川萤子は番号札を取り、大ホールで約1時間座っていると、ようやく警察官が一団のお年寄りを落ち着かせ、彼女の番号が呼ばれた。
森川萤子が席に着くと、対応してくれたのは若い警察官で、何があったのかと尋ねられた。
森川萤子はその若い警察官をじっと見つめ、一瞬思考が錯綜した。4年前にここで1年間の記憶を失ったことをどう説明すればいいのだろうか?
そのまま言えば、若い警察官は彼女が頭がおかしいと思い、追い出されるだろう。