康田麗子は森川萤子を梨区に連れて行った。ここは国境の無法地帯のようなところだった。
彼女は森川萤子を中に入れる勇気がなく、外側をうろついただけだった。「ここよ、私が森川おじさんを見かけた場所」
森川萤子が中に入ろうとすると、康田麗子に引き止められた。「お嬢さん、無謀にも限度ってものがあるわ。ここは私たちが簡単に入れる場所じゃないの」
森川萤子は国境に到着した初日、あのドライバーが彼女に言った言葉を思い出した。
彼女は眉をひそめた。「なぜ入れないの?」
「あの人たちの恐ろしい顔を見てよ。簡単に手を出せる相手じゃないわ。最初から教えなければよかった」
康田麗子は今、腸が青くなるほど後悔していた。彼女は森川萤子がこんなに大胆だとは思っていなかった。
どんな場所にも飛び込む勇気があるなんて?
森川萤子は遠くを見た。この通りは他の通りよりも陰鬱に見えた。
彼らの視線も非常に敵意に満ちていた。まるで法治社会から原始社会に突然入り込んだかのようだった。
「あなたは本当にここで父を見たの?それが本当に父だと確信してる?」森川萤子は尋ねた。
康田麗子は彼女と少し視線を交わした後、降参した。「わ、私も見間違えたかもしれない。あの夜は暗くて、私も怖かったから、間違えたかもしれないわ」
「でもさっきまであなたは自信満々に彼だと言ったじゃない」森川萤子は不満げに言い返した。
康田麗子は哀れな様子で「言い間違いよ。行きましょう、ここは無法地帯だから、警察でさえめったに来ないの。もう少しここにいたら疑われるわよ」
森川萤子は動かなかった。
康田麗子は彼女が無謀なことをするのを恐れ、声を低くして言った。「あなたが5年前に失踪したのはこの梨区よ。森川萤子、同じ轍を踏みたくなければ、早く行きましょう」
森川萤子:「……」
彼女はもう一度あの手ごわそうな人々を見て、ようやく康田麗子に引っ張られてタクシーに乗った。
車内で、康田麗子は言った。「森川萤子、死にに来るようなことは考えないで、わかった?」
森川萤子はバックミラーを見つめ、タクシーが曲がって梨区の通りが完全に見えなくなるまで、ようやく目を伏せた。
「うん、死にに行くつもりはないわ」