車は幹線道路を猛スピードで走り、森川萤子は車内に座り、手の甲で口元の血を拭った。
彼女はもう無駄な抵抗をしなかった。
久保義経のプライベートジェットで東京に戻れば、航空券代も浮く。
森川萤子はそう考えながらも、心の中では複雑な思いがあった。
彼女は知っていた。久保義経が彼女を連れ戻すのは、木村お母さんと接触させないためだということを。
幸い、USBメモリはすでに手に入れており、街中をうろついていた時に宅配便で東京に送っていた。
ただし、慎重を期して自分宛てではなく、片桐陽向宛てに送っていた。
今度はどうやって片桐陽向のところからUSBメモリを取り戻すか、それがまた問題だった。
森川萤子は椅子の背もたれに寄りかかり人生を疑いながら、落ち込んだ表情を浮かべていた。その姿は前の席のボディガードの目には、USBメモリを失い、すっかり元気をなくし、生きる気力を失ったように映った。