堇顔

表向きだけの結婚契約――有効期限は3年。
形だけの夫婦関係、まるで他人同然。
そして契約終了を目前に、彼女は新たな職場に就職する。まさか、その上司が夫だった。
「すみません。邪魔するつもりはありません。ただ、黒田グループを選んだのは……お給料が良かったからです」
冷静な態度で履歴書をめくる男は、ふと問いかけた。
「西村絵里、19歳のとき、どうして1年間休学していたの？」
「……大学1年の時、家庭に少し事情がありまして」
「そう？じゃあ、なぜ下腹部に傷があるの？」
「……虫垂炎です」
その瞳は、どこまでも深く、彼女の心を見透かすようだった。
3年の契約が満了し、彼女は痛みを堪えながら、静かに、そして毅然と背を向けて離婚届にサインした。
けれどその後も、なぜか元夫はしつこく付きまとってきて……
さらには、彼女の恋のチャンスまで次々と潰してくる。

黒田さん、結婚して見ませんか～

西村絵里が家に帰ると、まず甘奈の部屋に向かった。小さな女の子はTfboyの人形を抱きしめて、甘く眠っていた。とても満足そうな様子で、西村絵里の心は温かくなった。


小さなファンは本当に忠実だな！寝るときも自分のアイドルを抱きしめているなんて。


西村絵里は甘奈のおでこにキスをして、立ち上がろうとしたとき、小さな子が小さな唇を尖らせて寝言を言うのを聞いた。


「明くん、うちのboyが一番かっこいいよ」


西村絵里は思わず微笑んだ。あの出来事からもう数日経っているのに、甘奈がまだこのネタを覚えているとは思わなかった。


「誰が私にパパがいないって言ったの、私のパパはboyと同じくらいかっこいいよ、boyはパパが私にくれた天使で、パパは忙しすぎるから、とりあえずboyが私と一緒にいてくれるだけなんだよ」


第17章 黒田社長は浮気を恐れる

第17章黒田社長は浮気を恐れる