第32章 間接的なキス(1)

二人の男性の間に立ち、西村絵里は極度のプレッシャーを感じ、心臓がほとんど喉元まで飛び出しそうだった。

「先に仕事に行きます。黒田社長、藤原社長、お話しください。」

言い終わると、西村絵里は意を決して、背筋をピンと伸ばし、ホールの方向へ歩き出した。振り返ることなく、トラブルの場から遠ざかった。

藤原海翔は西村絵里の去っていく後ろ姿を見つめ、熱い好意を隠さず、自ら口を開いた。

「東栄インターナショナルのプロジェクトが絵里ちゃんのデザイン案を選んだなんて、黒田社長は目が高いですね。」

黒田真一の漆黒の瞳には意味深な光が揺れ、口角をわずかに引き締めた。

「黒田グループは常に人材を適材適所に配置していますよ。ただ、藤原様に一言忠告しておきます。藤原旦那様が、あなたが既婚女性に執着していることを知ったら、その結果は想像したくもないでしょうね。」

言い終わると、黒田真一は満足げに藤原海翔の表情が変わるのを見て、唇の端を上げながら西村絵里が去った方向へ歩き出した。

黒田真一の後ろにいた村上秘書は、異変を敏感に察知した。この黒田社長はいつも心を静かに保ち、読みにくい人だが、今日は明らかに怒りを見せたのだ。

藤原海翔はその場に立ち尽くし、大きな手を拳に握りしめた。確かに、藤原家の門閥意識は根深いものだった。

……

西村絵里はオフィスに着くとすぐに仕事に集中した。昨日は藤原海翔が車で迎えに来て、今日は送ってきたことで、黒田グループ内、特にデザイン部では少なからず騒ぎになっていた。

この藤原海翔は皇太子のような存在で、プレイボーイで、自由奔放、世俗にとらわれない人物だった。

彼が積極的に誰かを追いかけるという話はほとんど聞いたことがなく、むしろ多くの令嬢たちが競って藤原家の若奥様になりたがっているという噂ばかりだった。

藤原旦那様が海翔を最も可愛がっていることは周知の事実だった……

もし藤原家に嫁ぐことができれば、まさに一攫千金、鳳凰に変身するようなものだ。

西村絵里は他の女性社員たちの噂話を聞きながら、淡々と仕事をこなした。

矢崎凌空は西村絵里を歯がゆいほど憎んでいたが、彼女の手強さを目の当たりにした後は、むやみに対立することはなくなった。

……

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