堇顔

表向きだけの結婚契約――有効期限は3年。
形だけの夫婦関係、まるで他人同然。
そして契約終了を目前に、彼女は新たな職場に就職する。まさか、その上司が夫だった。
「すみません。邪魔するつもりはありません。ただ、黒田グループを選んだのは……お給料が良かったからです」
冷静な態度で履歴書をめくる男は、ふと問いかけた。
「西村絵里、19歳のとき、どうして1年間休学していたの？」
「……大学1年の時、家庭に少し事情がありまして」
「そう？じゃあ、なぜ下腹部に傷があるの？」
「……虫垂炎です」
その瞳は、どこまでも深く、彼女の心を見透かすようだった。
3年の契約が満了し、彼女は痛みを堪えながら、静かに、そして毅然と背を向けて離婚届にサインした。
けれどその後も、なぜか元夫はしつこく付きまとってきて……
さらには、彼女の恋のチャンスまで次々と潰してくる。

黒田さん、結婚して見ませんか～

それに自分の左手の薬指にあるダイヤの指輪……


黒田真一は女性の手のひらに広げられたダイヤの指輪を見て、淡々と口を開いた。


「私は人に贈り物をしたら、取り戻す習慣はない」


数千万円の価値があるダイヤの指輪、彼がそんなに気前がいいとしても、自分が持っているのは道理に合わない。


「申し訳ありませんが、黒田社長、この習慣は、今後は先例を作ることになるでしょう。なぜなら、私の習慣は功なくして禄を受けないからです……」


言い終わると、西村绘里は手の中の指輪を車の中に置き、唇を少し引き締めた。


自分は労働に見合った報酬を……


義のない財は受け取らない。


黒田真一は目を細め、西村绘里の言葉を聞いて、唇の端に賞賛の微笑みを浮かべた。


「いいだろう、君のためなら、一度だけ例外を作ってもいい」


第53章 あなたのために一度だけ例外を作る(2)

第53章あなたのために一度だけ例外を作る(2)