第64章 藤原三郎は本当に優しい(2)

藤原海翔はわざとユーモアを装い、西村絵里は目を少し暗くして、藤原海翔の前では、いつも何でも打ち明けることができた。

深く息を吸い込み、西村絵里は唇の端を引っ張った。

「言葉では言い表せないわ、三郎、私は彼に会ったの……」

ここまで言って、西村絵里は目を上げて目の前の藤原海翔を見た。男の整った顔の表情が一瞬凍りついたように硬くなった。

彼という言葉だけで、何の暗示もなく、藤原海翔は香坂悠生のことだと分かっていた。

「本当にドラマチックだったわ、私がトイレから出てきて、道をよく見ていなくて、そのまま彼にぶつかったの……トーテムで……でも、挨拶もせずに、そのまま行ってしまったわ。」

ここまで言って、西村絵里は淡々と微笑んだ。黒田真一と熱いキスをしていた時、なぜ香坂悠生が追いかけてきたのか考えたくなかった。

彼は私を探していたの？

藤原海翔：「……」

藤原海翔はまるでお菓子を奪われた子供のように、突然大きな手を伸ばして目の前の西村絵里を抱きしめた。

「絵里ちゃん、まだ彼のことを愛しているの？」

怖かった……

結局、幼なじみとして一緒に育ち、自分と香坂悠生が前後して告白した時、西村絵里は香坂悠生を選んだのだから。

藤原海翔は西村絵里の前では、自信など全く持てなかった。

「わからないわ……今は、愛という言葉を口にするのは適切じゃないかもしれない。もう子供の母親になって、結婚もしたし……お互い最も親しい他人でいるのがいいんじゃないかしら。それでいいの。ただ、物は同じでも人が変わってしまったことに感慨を覚えるだけよ。」

愛は現実に負け、ひどく平手打ちを食らった……

どれだけ痛かったとしても、回復した後、自分はまた不死身のゴキブリになれる。

もう愛のために死にものぐるいになる年齢は過ぎていた。

「うん、たとえ物は同じでも人が変わっても、僕はずっとここにいるよ。」

藤原海翔は西村絵里の言葉に安堵したものの、西村絵里をさらに強く抱きしめた。

西村絵里は藤原海翔に抱かれるままにしていた。しばらくして、藤原海翔はゆっくりと手を緩め、目の前の柔らかく繊細な女性を見つめた。赤い唇が魅惑的だった。

突然、大きな手で女性の後頭部を掴み、西村絵里は男が何をしようとしているのか気づいたが、抵抗せず、ただ美しい瞳で静かに目の前の男を見つめていた。