堇顔

表向きだけの結婚契約――有効期限は3年。
形だけの夫婦関係、まるで他人同然。
そして契約終了を目前に、彼女は新たな職場に就職する。まさか、その上司が夫だった。
「すみません。邪魔するつもりはありません。ただ、黒田グループを選んだのは……お給料が良かったからです」
冷静な態度で履歴書をめくる男は、ふと問いかけた。
「西村絵里、19歳のとき、どうして1年間休学していたの？」
「……大学1年の時、家庭に少し事情がありまして」
「そう？じゃあ、なぜ下腹部に傷があるの？」
「……虫垂炎です」
その瞳は、どこまでも深く、彼女の心を見透かすようだった。
3年の契約が満了し、彼女は痛みを堪えながら、静かに、そして毅然と背を向けて離婚届にサインした。
けれどその後も、なぜか元夫はしつこく付きまとってきて……
さらには、彼女の恋のチャンスまで次々と潰してくる。

黒田さん、結婚して見ませんか～

山口琴子は元々香坂悠生が交通事故に遭ったと聞いただけで、最初は事故だと思っていたが、井上莉菜に衝突されたこと、そして西村绘里を救うためだったとは思いもよらなかった。


つまり、悠生は...帰国後、また西村绘里と会ったのか？


まずい、この香坂悠生は西村绘里に完全に心酔している。もし本当に西村绘里と再会して、彼女が黒田真一の妻、つまり自分の義姉になっていたら、悠生の西村绘里への愛情の深さを知る自分としては、彼が崩壊することは間違いない。


山口琴子はそう聞いて、連続して後ろに数歩下がり、背中が壁に当たってようやく自分の体が崩れ落ちないように支えることができた。


西村绘里は、本当に自分の天敵だ。


自分はまだ覚えている、あの時、西村绘里が最後に自分を離れる時に言った言葉を。


香坂悠生、私、西村绘里はもういらない、今はいらない、これからもいらない。


女性の強く確信に満ちた言葉は、これほど長い年月、多かれ少なかれ常に耳元に漂い、呪いのように自分を悩ませ続けていた。


山口琴子は、自分が香坂悠生のために選んだ道は、明るい大通りだと固く信じていた。


黒田真一が言い終わると、一瞬にして空気が凍りついた。黒田真一は山口琴子の表情を無視し、直接西村绘里を抱きかかえてエレベーターホールへと向かった。


西村绘里は瞳を暗くした……


この井上莉菜は山口琴子が香坂悠生のためにセッティングした、いわゆる釣り合いの取れた女性、名門のお嬢様だ。


しかし……香坂悠生を傷つけた人は、まさに井上莉菜だった……


これは、すべてが山口琴子というママがもたらした…報いと言えるのだろうか？


西村绘里は黒田真一について駐車場へ行き、車に乗り込むと、思わず眉間をさすった。時間はまだ夜の11時だった。


知っていれば、さっき小さな姫を送り出さなかったのに。


もう彼女が恋しくなってきた。


西村绘里が娘のことを考えると、全身がしおれたようになった。


もう一つの理由は山口琴子を見たからだ。


あんな人でなしを見ると、気分が悪くなる。


黒田真一は西村绘里の視線が窓の外に向けられ、物思いにふける様子を見て、薄い唇を引き締めた。


「山口琴子のことを考えているの？」


第578章 西村絵里は黒田奥様1更(3)

第578章西村絵里は黒田奥様1更(3)