休憩室内:
「行きましょう」
景山瑞樹は視線で村上念美に自分の腕を組むよう促した。村上念美は口元に微かな笑みを浮かべ、手を上げて男性の腕に手を添えた。
……
パーティー会場に入ると、村上念美はようやく今日のパーティーがとても盛大なものだと気づいた。大崎市の権力者たちが全員出席していた。
ここ数日、村上氏の雑事に忙殺されていた村上念美は、このようなパーティーのことを気にかける余裕がなかった。
村上念美は唇を引き締めた。実は3年前、自分が婚約破棄という衝撃的な行動をとって以来、人前に姿を現したくないと思っていた。
「帰りたい?」
隣にいる景山瑞樹が彼女の心を正確に言い当てた。村上念美は否定しなかった。
「うん」
「村上念美、あなたは今、村上氏を引き継いだばかり。ビジネスの世界では人間関係が非常に重要だよ」
村上念美:「……」
村上念美は景山瑞樹の珍しく真面目な言葉を聞きながら、顔を向けて男性の妖艶で深い黒い瞳と目が合い、軽く唇を噛んだ。
「景山様、あなたの言葉は、私に善意で支援してくれているのかと誤解させますね」
村上念美は冗談めかして言ったが、美しい瞳は水のように澄んでおり、いくらかの真剣さを滲ませていた。真実と嘘が入り混じっていた。
「精油事業を手放したのは、もう明らかなことだと思っていたよ」
嘘つき。
村上念美は心の中でつぶやいた。今、自分と藤原景裕の内密の結婚は誰も知らない。外部の人から見れば、村上氏は混乱状態で、自分自身も弱い立場にある。
だから景山瑞樹が自分を攻撃するのは簡単なはずだ。
それなのに男は手加減している……
景山瑞樹は長い目で見て大きな獲物を狙っているのか?
村上念美は少し頭が痛くなった。景山瑞樹と駆け引きするのは本当に簡単なことではない……
……
「藤原さんがいらっしゃいました」
誰かが声を上げると、皆の視線が一斉に会場外の黒い高級スポーツカーに向けられた。村上念美はそれが藤原景裕の車だとわかった。
以前、藤原景裕と結婚届を出しに行った時も、この車に乗っていた。
来場者は皆女性の同伴者がいて、藤原景裕も例外ではなかった。
藤原景裕は長身を運転席から降ろし、表情は氷のように冷たく、近寄るなという態度だった。
赤いドレスを着た女性の同伴者が男性の後部座席から降り、彼の後に続いた。