藤原家:
昨夜、藤原景裕と不愉快なことがあったにもかかわらず、彼の出現は間違いなく村上念美の心を少し安心させた。
藤原景裕はリビングに入ると、上着を使用人に渡した。
「おじいさん、お父さん、お母さん」
藤原景裕は表情を平静に保ちながら、藤原家の緊張した雰囲気を巧みに察知した。
村上念美が強引に困難に立ち向かうなんて、明らかに嵐を避けるためだ。
もし自分が駆けつけなければ、あの小娘は対応できなかっただろう。
結局のところ、藤原大旦那様、熊谷紗奈、藤原陽はみな手強い相手だ。
……
藤原大旦那様は軽く鼻を鳴らし、それから口を開いた。
「この村上三女ちゃんが藤原家に来ないと、何日もお前の姿も見られんな」
大旦那様の言外の意味を聞き取り、藤原景裕は薄い唇を上げ、村上念美の側に歩み寄り、手を上げて女性を抱き寄せ、非常に親密な様子を見せた。
「どうした?おじいさんと互角の勝負だったか?」
「そ...そうよ...」
男性の声は磁性を帯び、少し甘やかすような調子で、村上念美は少し硬直し、藤原景裕が自分の前で親密さを装っていることを知っていた。
「この娘はね、実力がますます凄くなってきたよ...そういえば、最初にこの娘に将棋を教えたのはお前だったな」
「ああ」
藤原大旦那様が過去のことに触れると、藤原景裕と村上念美の目の色がわずかに動いた。
藤原大旦那様は二人がそれぞれ思いを抱えているのを見て、表情を変えずに将棋を続けた。
……
一局が終わり、村上念美と藤原大旦那様は互角の勝負だったが、藤原景裕が横から指導したこともあり、村上念美は見事に勝利した。
藤原大旦那様は手の杖をトントンと叩き、言った。「景裕、庭園を一緒に散歩しよう」
「はい」
村上念美は藤原景裕が行こうとするのを見て、表情がわずかに動いた。
藤原景裕は手を村上念美の肩に置き、薄い唇を引き締めた。
「少し待っていて、すぐ戻るから」
腕には男性の熱い手のひらがあり、村上念美の心は温かくなった。
「うん」
村上念美は口元に微笑みを浮かべ、藤原景裕が藤原大旦那様を支えて去っていくのを見送った。
……
熊谷紗奈は藤原大旦那様が去るのを見て、唇を引き締めて言った。「村上念美、私たちも話しましょう」